2009年4月1日水曜日

Book3 Lesson3 Who was James Watt?

プログレス・ノート by 東大式個別ゼミ(神奈川県相模原市東林間駅近くにある中高一貫校生向けの小さな個別指導塾で、プログレス・トレジャー・Birdlandの個別指導をしています)

Lesson3でホームズのほかに紹介されているのは、昔は子供向け伝記で良く取り上げられたジェームス・ワット(1736-1819)です。

ワットは蒸気機関の関与者として有名で、私も小学生の時には彼の伝記を読みました。今でもよく覚えているのですが、ワットの時代にはニューコメンの蒸気機関というのがあり、炭鉱を掘るときにわき出してくる水を運び出すのに用いられていました。それを革命的に改良したのがワットでした。ニューコメンのは蒸気の膨張する力を利用しますが、同時に毎度毎度冷却する必要があり熱効率が非常に悪かったのです。ワットはたしか冷却不要の蒸気機関を作ったのでした!

念のために書いておきますと、蒸気機関車の改良者として有名なのはワットではなく、スチーブンソン(1781-1848)です。この人の伝記も、昔は有りました。

現在、ワットの子供向け伝記が存在するのかどうか調べてみたところ、一番新しいものは1994年発行の『私の模型が世界を変えた』でした。おそらく、今ではワットのような産業革命の技術革新者の名前は一般には忘れ去られた存在なのでしょう。

なぜプログレスの編集者がワットを教科書で取り上げたのか、私には分りません。昔からプログレスにはワットの紹介があったのでしょうか、それとも、あえて2005年発行の新しいプログレスに採用されたのでしょうか。もし後者であるとしたら、大変興味深いことです。あえてポスト産業主義の現代において、18世紀~19世紀にかけてのイギリスの繁栄とその時代背景を回顧する意図があったといえるのかもしれません。


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ところで本文では次のような文章で始まっています。

Sherlock Holmes looked for hidden clues to solve difficult human crimes. Inventors and engineers also work like detectives searching for clues to solve the mysteries hidden in nature and the universe.



ホームズ流の探偵小説もワットの発明物語にも近代主義の精神が根底に流れているということなのでしょう。しかしポスト近代といわれて久しい現代においては、このような考え方自体がちょっと陳腐になりつつあります。ワットが忘れ去られつつあるのも、そういう文脈でしょう。ホームズは今なお読み継がれているのか否かといえば、やや微妙なところですね。ホームズの新訳があるのですから読まれてはいるのでしょうが、昔ほど小中学生に読まれてはいないように思われます。

事実、今日の私たちが探偵諸説を読むとき、かつてのように素朴に熱狂的に読むことはできません。ドイルやポーの作品は、単なる謎解きであるばかりでなく、たとえば、植民地主義や帝国主義の精神の例証を見いだしてしまうからです。(たとえば、アメリカ文学研究者巽孝之の書物などを参照のこと)。あるいは、古典的な探偵小説の素朴なマインドに距離を置いてしまうことでしょう。そこでちょっと注目したいのは日系イギリス人作家カズオ・イシグロ(将来のノーベル文学賞候補)の作品です。イシグロは『私達が孤児だったころ』という小説を著し、かつての探偵小説とその精神をパロディにしたのです。現代人はホームズとともに、イシグロの探偵小説『私達が孤児だったころ』を読んでみるべきではないでしょうか。プログレスで学ぶ中学生も、やがてBook5やBook6を読む頃にはKazuo Ishiguroの読者になっているかもしれません。


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